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RAG(検索拡張生成)は、ChatGPTのようなAIが質問に答える前に、自分で情報を探してくれる仕組みです。
業務マニュアルや社内FAQをもとに回答できるこの技術は、「業務で使えるAI」として注目されています。
でも実際に使ってみると、
「ちょっとズレた答えが返ってくる」
「一見正しそうだけど、なんか違う」
そんな“惜しい”瞬間に、モヤモヤを感じたことはありませんか?
そのモヤモヤを解消してくれるのが、「Advanced RAG」というちょっと賢い仕組みです。
この記事では、RAGの精度がうまく上がらない理由と、Advanced RAGでどう変わるのかを、わかりやすくご紹介していきます。
RAGの精度向上における代表的な課題と、その原因
高精度なRAGを構築するための「Advanced RAG」の考え方と6つの設計アプローチ
チャンク設計・Embedding・クエリリライトなど、技術的改善の具体例
ユースケース別に見るRAG設計の最適パターン(ナレッジ検索/FAQ/専門領域など)
RAG構築や改善を実装レベルで支援する、Rabilooの技術サポート内容
生成AIに社内の情報を組み合わせて、より自然で正確な回答を返す──そのために使われる技術が「RAG(検索拡張生成)」です。
大規模言語モデル(LLM)だけでは対応しきれない情報のカバー範囲を、社内ドキュメントやFAQといったナレッジベースで補う。これがRAGの基本的な仕組みです。
しかし、いざRAGを導入しても「思ったように精度が出ない」と悩むケースは少なくありません。
「答えは出ているけれど、ちょっとズレている」――こうした“惜しいRAG”の背景には、実は技術そのものではなく、設計や運用上の“ちょっとしたズレが潜んでいることが多いのです。
ここでは、RAGの精度向上を妨げる代表的な“つまずきポイント”を3つご紹介します。
▶︎【初心者でもわかる】LLM(大規模言語モデル)とは?わかりやすく解説!
RAGでは、ユーザーからの質問を元に関連情報を検索します。
しかし、その質問が曖昧だったり、略語や社内用語を含んでいたりすると、検索エンジンが意図とは違う情報を拾ってしまうことがあります。
たとえば「納期調整はできますか?」という質問に対して、「納期」「調整」といった単語だけで検索すると、プロジェクト全体のスケジュールや契約条件など、ピントのずれた情報がヒットしてしまうことがあるのです。
これは、
検索エンジンが“キーワードの一致”には強くても、“質問の意図”までは読み取れないという特徴を持っているため
です。
こうしたズレを防ぐには、検索前の「クエリの意味づけ」や「リライト」といった処理が必要になります。
RAGが情報を検索するには、まず参照する文書群を小さな単位(チャンク)に分割し、それぞれをベクトル化してインデックス化する必要があります。
この設計が雑だったり、チャンクごとの情報量にばらつきがあったりすると、検索精度が大きく落ちてしまいます。
たとえるなら、図書館で本がランダムに棚に詰め込まれていたら、目的の本を探すのに時間がかかるのと同じです。
また、ベクトルの埋め込みが古いままだったり、文書の更新がインデックスに反映されていなかったりする場合も、間違った情報が引き出される原因になります。
RAGにとって“情報の整理整頓”は、精度を支える土台そのものなのです。
検索まではうまくいっていても、その情報がそのままLLMに渡されてしまうと、重要な部分が埋もれてしまうことがあります。
たとえば、複数の文書が同時に渡されたり、チャンクの中に複数の話題が混ざっていたりすると、LLMは「どこに注目すべきか」がわからなくなってしまいます。
その結果、「それっぽいけれど浅い」回答になりがちです。
これは、検索結果を“そのまま渡す”のではなく、“要点を整える工程”が足りていないことに起因しています。
必要に応じて、情報の再スコアリングやRerankerの導入、あるいは要点抽出の処理を挟むことが求められます。
RAGの精度が思うように出ないとき、多くの現場では「AIの性能が足りない」と考えてしまいがちです。
しかし実際には、ユーザーの質問の捉え方や、文書の整理方法、検索結果の活かし方など、“人間側の設計ミス”や“運用の工夫不足”が原因であることがほとんどです。
そして、こうした課題に対して、より文脈に寄り添い、検索と生成を最適化するための新しいアプローチが「Advanced RAG」です。
次のセクションでは、このAdvanced RAGがどのようにRAGの精度向上に貢献できるのかを、できるだけわかりやすくご紹介していきます。
RAGの精度に悩んでいるとき、つい「もっと性能の高いLLMを使えば解決するのでは?」と考えてしまうことがあります。
しかし実際には、RAGの精度を大きく左右しているのは、回答を生成するモデルそのものではなく、その前段階で行われる「情報の検索(Retrieval)」の設計です。
なぜなら、RAGの仕組みは、あくまで「検索した情報」を元にLLMが文章を生成するという構造だからです。
どれだけ優れたLLMを使っていても、引き出された情報がズレていれば、結論も当然ズレてしまいます。
ここで重要になってくるのが、「Advanced RAG」というアプローチです。
Advanced RAGとは、RAGの精度を高めるために、検索の仕組みや情報の扱い方をより高度に設計し直す考え方です。
特に以下のような課題に直面している場合、効果を発揮します。
ユーザーの質問の意図がうまくくみ取れず、検索結果がズレてしまう
インデックスが雑で、必要な情報がヒットしない
正しい情報は引けているのに、生成された回答に反映されない
これらの課題は、いずれもRetrieval部分の工夫や最適化によって解決できる領域です。
Advanced RAGでは、単純なベクトル検索に頼るのではなく、以下のような工夫を組み合わせて精度を高めます。
クエリリライト(質問の意味を明確化)
ハイブリッド検索(ベクトル+キーワード)
チャンク設計の最適化
Rerankerによる再スコアリング
メタデータ付きのインデックス活用
こうした設計を取り入れることで、「答えは近いけど惜しい」というRAGの弱点を補い、実務で使える回答の精度に近づけることができるのです。
LLMの性能やチューニングももちろん大切ですが、それ以上に大きな影響を与えるのがどんな情報を取り出すか、その情報をどう整理して渡すかというRetrievalの仕組みです。
言い換えれば、RAGの精度向上は「AIを賢くすること」ではなく、「AIに渡す情報を賢く選ぶこと」が本質なのです。
次に、Advanced RAGを構成する具体的な改善アプローチについて、順を追ってご紹介していきます。
RAGの精度向上は、「検索でいかに関連性の高い、文脈に合った情報を引き出せるか」にかかっています。
そのために必要なのが、「Retrieval設計」を中心に各処理を高度化する Advanced RAG という考え方です。
ここでは、RAGの構成を6つのフェーズに分け、それぞれでよく使われる改善アプローチをご紹介します。
AIが情報をうまく探せるように、まず文書を整理するところからスタートです。AIが答えを探すために必要な情報(マニュアルやFAQなど)を「検索しやすい形」に変えます。
しかし単に文章をベクトル化するだけでは足りません。たとえば:
内容の区切りごとに分割(チャンク分割)
「カテゴリ」や「日付」などのメタデータを追加
適した埋め込みモデル(BGE・Cohereなど)の選定
こうした工夫をすることで、AIは「どこに何が書いてあるか」を文脈ごとに理解しやすくなります。
例:紙の書類をスキャンしてデジタル化し、さらに「返品」「配送料」「サポート」など、意味ごとに整理するイメージ。
目的:AIが必要な情報をすばやく見つけられるようにする。
検索の精度は、最初の“情報の整理”から始まる
入力された質問文は、曖昧だったり長すぎたりすることが多く、そのままでは適切な情報が引き出せません。
そこで、まずは質問の意図を明確にする「Query Transformation」で、検索しやすい形に整えます。
さらに、どの資料を見るべきか、どの検索エンジンを使うべきかを判断する「Query Routing」によって、無駄のない効率的な検索ができます。
“聞き方を整える”ことが、精度の鍵を握る
ここがRAGの心臓部。単に似ている情報を集めるだけでは不十分です。
本当に重要なのは、以下のような「文脈を壊さずに意味のある情報を引き出す」こと:
ベクトル検索とキーワード検索の併用(ハイブリッド検索)
セマンティックチャンク設計(話題の流れを意識)
類似度スコアでフィルタリング(信頼性の高い情報に限定)
量ではなく“使える情報”を正確に取ることが重要
せっかく良い情報を取ってきても、それをそのままLLMに渡すと誤解を生むことも。
複数の資料がごちゃ混ぜ
重要な部分が埋もれている
同じ内容が重複している
こうしたリスクを避けるために、「情報の再構成」や「並び替え」「スコアによる絞り込み」などを行います。これがPost-Retrieval処理です。
“AIに伝わりやすい形”に整えることで回答精度がアップ
AIが答えを作る段階でも、「どんなプロンプトで生成させるか」が重要です。
取得情報を要約して渡す
回答フォーマットを指定する
直接引用を促す設計にする
信頼スコアをつけて答える
こうした工夫によって、正確でブレない回答を導きやすくなります。
AIに“どう答えさせるか”を設計するのも技術の一部
回答の精度は、一度作って終わりではありません。
「どこが間違っていたか?」「なぜ意図とズレたか?」を検証するために、回答評価(Evaluation)が不可欠です。
生成された答えが良かったのか悪かったのか、それを定量的・定性的にチェックするのがこのフェーズです。
自動スコア(F1、EMなど)での評価
ユーザーのフィードバック収集
再学習のための改善ループ
ここまでやって初めて、RAGが“運用できるAIシステム”として機能するようになります。
作って終わりではなく、改善し続ける仕組みが必要
このように、RAGの精度向上は「単なるテクニックの足し算」ではなく、各工程を論理的に設計し、調整し続ける仕組み作りでもあります。
次のセクションでは、これらのアプローチがどのようなユースケースで使われているかを具体的にご紹介します。
Advanced RAGの技術は、理論的には理解できても「自分たちの現場にどう当てはまるのか」がわからなければ、導入の判断は難しいものです。
ここでは、実際によくあるユースケースを例に、どんな課題があり、どの設計アプローチが有効かを簡潔に整理してみます。
課題
社内には業務マニュアルや議事録、ガイドラインなど膨大な文書があるが、必要な情報がすぐに見つからない。検索ワードに強く依存し、目的の内容にたどり着けない。
有効なアプローチ
チャンク設計とメタデータ付きインデックスによる構造化
クエリリライトによる意図の明確化
ハイブリッド検索でキーワードと意味検索の両立
想定シナリオ
「契約書の保管ルール」や「経費精算のフロー」など、部門をまたいで散在する情報も、自然な言葉で質問するだけで即座に検索できる。
課題
ユーザーの質問文が曖昧だったり、言い回しが多様だったりして、FAQシステムでは対応しきれない。
有効なアプローチ
クエリリライト+Query Routingで検索対象を調整
高精度Embedding+Rerankerで類似度評価を改善
Post-Retrieval処理で情報を整えてから生成に渡す
想定シナリオ
「返品できますか?」という曖昧な質問に対しても、「返品条件/手続き方法/期間」などを文脈から正確に導き出す回答が可能になる。
課題
回答に間違いが許されず、情報の出典や根拠が明確であることが求められる。情報の粒度も細かく、文脈も複雑。
有効なアプローチ
高精度Embeddingとセマンティックチャンク
スコア付きRetrieveと出典URLの明示
Generationプロンプトで「根拠を示す」形式を指定
想定シナリオ
「◯◯条文の適用条件は?」といった質問に対して、該当する条文の抜粋と、関連する解釈ガイドを併せて表示できる。
課題
ユーザーは「検索ワードを考える」ことすら面倒。日常会話のように質問して、必要な情報を少しずつ引き出したい。
有効なアプローチ
文脈保持型のクエリ処理
Retrieval結果の段階的表示(Multi-turn設計)
Generationプロンプトで「前回の回答を踏まえる」形式を設計
想定シナリオ
「今月の営業報告、どこ?」→「部門は?」→「マーケです」→「こちらです」と、やりとりの中で情報に自然にたどり着ける。
Advanced RAGは万能なテンプレートではなく、目的やデータの性質に応じて柔軟に設計すべき仕組みです。
そのためには、自社のユースケースに合わせて、
「どんな質問が来るのか?」「どんな情報が必要か?」「どこでズレやすいか?」といった視点で逆算的に設計することが欠かせません。
最後に、こうした課題に対してRabilooがどのような支援を提供できるのかをご紹介します。
ここまで見てきたように、RAGの精度向上には設計・実装・運用の各フェーズでさまざまな工夫が必要です。
単にツールを導入するだけでは成果は出にくく、「どこがボトルネックかを見極めて、どこから改善すべきか」を考える設計力と実行力が求められます。
Rabilooでは、RAGのPoC(実証実験)から本番運用まで、技術チームが直接サポートする支援サービスをご提供しています。
RAGは導入したが、精度が上がらない・検証が止まっている
ベクトル検索だけでは限界を感じている
情報の設計やチャンク分割をどこから見直せばよいかわからない
LangChainやLlamaIndexなど、フレームワークの使い分けで迷っている
こうした技術的な悩みに対して、Rabilooは実装ベースで支援できる開発チームとして並走します。
1. 設計レビュー・技術診断
既存のRAG構成を確認し、問題点を洗い出します。Retrieverの構成やEmbeddingの選定、インデックスの構造などを技術的に精査します。
2. Advanced RAGアーキテクチャ設計
チャンク設計・検索手法・Reranker・Query Rewritingなど、最適な技術構成をご提案します。必要に応じてフレームワークの選定支援も行います。
3. 実装・PoC構築
社内ナレッジやFAQなどを対象に、RAGのPoC環境を構築します。LangChain、LlamaIndex、HaystackなどのOSSを活用し、要件に合った形で柔軟に構成します。
4. チューニング・品質改善
RAG導入後の精度チューニング、スコア調整、出力フォーマットの制御、Evaluation指標の導入など、継続的な改善も支援します。
Rabilooは、検索技術・自然言語処理・生成AIの研究開発に多数取り組んできた経験をもとに、単なるコンサルティングではなく、「手を動かせるパートナー」として現場で実装をサポートします。
HaystackやLlamaIndexなどOSSベースの設計に精通
ChatGPT APIや独自Embeddingの活用実績あり
RAGを業務プロセスに組み込む“現実解”を重視
構想を形にする技術パートナーとして、プロトタイプから実運用まで伴走します。
まずは、「今のRAG構成をどう改善できるか?」の診断から、お気軽にご相談ください。
RAGは、生成AIと社内情報を組み合わせることで、業務に役立つ“知識を引き出す力”を飛躍的に高める技術です。
しかし、多くの現場では「精度が上がらない」「情報がズレる」「回答に自信が持てない」といった課題に直面しています。
その原因の多くは、モデルやツールの性能ではなく、Retrieval(検索)の設計と情報の扱い方にあります。
本記事で紹介した「Advanced RAG」は、検索と生成の各工程を見直し、情報の構造・検索精度・回答品質を高めていくための実践的なアプローチです。
チャンク設計やメタデータによる構造化
意図を正確に伝えるクエリ変換
Rerankerや出力制御による生成精度の強化
評価と改善を回す仕組みまで含めた“実用レベル”の設計
部分的に取り入れるだけでも、RAGの品質は大きく変わります。
Rabilooでは、RAGの診断・再設計・PoC構築・本番運用まで、技術チームが実装を前提に支援します。
単なる知識ではなく、「精度を上げるために、どこをどう変えればいいか」を具体的にご提案できます。
👉 無料の技術相談・構成レビューをご希望の方は下記のフォームからお問い合わせください。
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