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中国発の新LLM『Qwen3』、アリババがオープンソースで公開

2025/05/09
2025/05/09
中国発の新LLM『Qwen3』、アリババがオープンソースで公開

Chat GPTの普及以降、生成AIの世界では新しい言語モデルの登場が続いています。

そうした流れの中で、2025年4月29日、中国のアリババが「Qwen3(クウェン・スリー)」という新しいモデルを発表しました。

開発を手がけたのは、同社のクラウド部門であるAlibaba Cloudです。

これまでこの分野では、ChatGPTやClaudeなど米国勢が主導してきました。

しかし、2024年12月26日に公開されたDeepSeek-V3が、その構図に一石を投じました。

驚くべき性能と低コストを両立させたことで、各国の開発者に衝撃を与え、「DeepSeekショック」とも呼ばれています。

Qwen3は、その流れを受けて登場した中国発のLLMのひとつです。

処理性能や応答の制御、多言語対応など、実装の現場を意識した構成になっており、“派手さ”よりも“使いやすさ”に重点を置いた設計が特徴です。

この記事では、Qwen3がどういったモデルなのかを整理しつつ、

今、企業や開発チームがAIモデルを選ぶうえで何を見ておくべきか、そのヒントをお伝えします。

アリババが「Qwen3」を発表 中国発の新しいLLM

アメリカ企業が主導してきた生成AIの分野に対し、中国の存在感が静かに強まっています。

そんな中、アリババが新たに発表したのが、大規模言語モデル「Qwen3(クウェン・スリー)」です。

公開日は2025年4月29日、開発はAlibaba Cloud

2025年4月29日、中国のIT大手アリババのクラウド部門 Alibaba Cloud は、新しい大規模言語モデル「Qwen3(クウェン・スリー)」を発表しました。

このモデルは、同社が以前から開発を続けてきた「Qwen」シリーズの最新バージョンにあたります。

Qwen3は、自然言語処理を中心とした幅広い用途に対応しており、複数のモデルサイズ(たとえば0.5B、7B、14B、72Bなど)をラインナップとして公開。研究目的から実業務での導入まで、多様なニーズに応える構成になっています。

Alibaba Cloudは、アジア地域において急成長しているクラウドサービスプロバイダーのひとつで、AI基盤の整備にも注力してきました。Qwen3は、その中核をなすLLM技術の柱と位置づけられています。

オープンソース&商用ライセンスでの提供

Qwen3は、Apache 2.0ライセンスのもとでオープンソースとして公開されています。

このライセンスにより、企業・個人を問わず、研究利用だけでなく商用プロジェクトへの組み込みも可能です。

近年、多くの大規模言語モデルが商用利用に制限を設ける中、Qwen3のライセンスは実装・事業化を見据えたユーザーにとって魅力的な条件となっています。

同時に、コードとモデルの重みもGitHubおよびHugging Face上で一般公開されており、導入のしやすさや再現性の高さもQwen3の特長の一つです。

加えて、Qwen3は軽量なローカル実行環境「Ollama」にも対応しており、開発者が自身の端末上で簡単に動作を試すことも可能です。 この連携により、クラウド環境だけでなくローカルでの検証や軽量プロトタイピングにも活用しやすくなっています。

▶︎LLMをローカルで動かす方法:Ollamaで最小構成からスタート

背景にある“DeepSeekショック”と中国勢の台頭

Qwen3の登場は、突然の出来事ではありません。

その背後には、中国企業が次々とLLM市場に参入し始めた流れがあり、とくに2024年末に公開された「DeepSeek-V3」が大きな転機となりました。

DeepSeek-V3がもたらした“ショック”

2024年12月26日、中国のAIスタートアップ DeepSeek が公開した「DeepSeek-V3」は、それまでのAI業界の空気を一変させました。

このモデルは、6710億パラメータ規模のMixture-of-Experts(MoE)構成を採用しつつも、わずか557万ドルという低コストでトレーニングされたことが注目されました。

性能面でもGPT-4やClaude 3に匹敵するとされ、多くの開発者や研究者が「中国からこのレベルのモデルが来るとは」と驚きをもって迎えました。

この反応は「DeepSeekショック」と呼ばれ、これを機に中国発のLLMに対する認識が一気に変わったと言われています。

中国発LLMが続々と登場する流れ

DeepSeekの登場以降、中国の大手テック企業やAIスタートアップは、次々と独自のLLMを発表しはじめました。

Baiduの「Ernie」、Tencentの「Hunyuan」、そしてアリババの「Qwen」シリーズもその一例です。

以前は米国企業が独占していたLLM市場も、今では明らかに多極化のフェーズに入りつつあります。

こうした流れの中で登場したのがQwen3です。

“ポストDeepSeek”の世界において、中国企業がどのようなLLMを出してくるかが注目される中、アリババというビッグプレイヤーによるオープンソース公開は、ひとつの分岐点として意味を持っています。

Qwen3はどんなモデルか──使いやすさを重視した設計

Qwen3は、派手な性能競争ではなく、“実際に使えるかどうか”という視点から設計されたモデルです。

生成AIが現場に入り始めた今、応答の安定性や制御性、導入のしやすさが、モデル選定において重要な基準となりつつあります。

多言語対応や応答制御などの特徴

Qwen3は、多言語対応を前提に設計されたモデルで、日本語を含むさまざまな言語で自然な応答が可能です。

指示の解釈力や応答の一貫性にも力が入れられており、単なる英語特化型モデルとは異なる強みを持っています。

また、応答の「出力制御」がしやすい点も特徴のひとつです。

たとえば、ある程度の出力スタイルをテンプレート化したり、指定フォーマットに沿った応答を安定して生成するように調整しやすく、業務での活用やシステム統合にも適しています。

こうした仕様は、開発・運用の実務を意識した“地に足のついたモデル”として、他の派手なLLMとは異なるポジションを築いています。

モデル構成とライセンス:実務を意識した設計

Qwen3は複数のモデルサイズを同時に公開しており、利用環境や開発フェーズに応じて柔軟に選べる構成が整っています。

モデル名

特徴

主な用途例

Qwen3-0.5B

軽量モデル

ローカル検証、軽量サービス

Qwen3-8B

標準モデル

応答の安定性と速度のバランス

Qwen3-30B / 72B

中〜大型モデル(MoEあり)

高度な生成処理、多段階応答

Qwen3-235B-A22B

フラッグシップモデル(MoE)

複雑な推論、長文生成など

これらのモデルはすべて Apache 2.0ライセンス で提供されており、研究・商用を問わず自由に利用可能です。

Hugging Face や GitHub から直接取得できるほか、Ollama を使えばローカル端末でも簡単に起動・試用できます。

このように、Qwen3はクラウドだけでなくオンプレミスやローカル検証といった多様な導入ニーズに応えられる点でも、実務的な使いやすさを備えています。

他の主要LLMとの仕様比較

以下は、Qwen3を中心に、現時点で注目されている主要LLMの基本仕様をまとめた比較表です(2025年5月時点)。

モデル名

開発元

総パラメータ数

アクティブパラメータ数

モデル構成

コンテキスト長

ライセンス

商用利用

リリース日

Qwen3-235B-A22B

Alibaba

235B

22B(MoE)

Mixture-of-Experts

128K

Apache 2.0

可能

2025/4/29

Qwen3-32B

Alibaba

32B

32B

Dense

128K

Apache 2.0

可能

2025/4/29

Deepseek-R1

DeepSeek

671B

37B(MoE)

Mixture-of-Experts

128K

MIT

可能

2024/12/26

OpenAI-o1

OpenAI

非公開

非公開

非公開

128K

非公開

非公開

2024/12/17

OpenAI-o3-3-mini

OpenAI

非公開

非公開

軽量

128K

非公開

非公開

不明

Grok 3 Beta (Think)

xAI(Elon Musk)

非公開

非公開

非公開

不明

不明

不明

2025年春

Gemini 2.5 Pro

Google

非公開

非公開

非公開

128K

非公開

非公開

2025/3

※MoE=Mixture-of-Experts構成。推論時に部分的にのみアクティブ化する構造

Qwen3は、構造上の効率性(MoEによるアクティブパラメータの削減)とライセンスの自由度を両立しており、導入ハードルが低いモデルと言えます。 現時点で爆発的な注目は集めていないものの、Qwen3はライセンスの自由度や構成の柔軟さといった面で、開発現場にとって現実的な選択肢になりうるモデルです。

Qwen3をどう評価すべきか?

Qwen3は、DeepSeekほど話題になっているわけではありません。

しかし、商用ライセンス、柔軟な導入性、複数のモデルサイズ展開といった、実務での扱いやすさに重点を置いた設計は、現場志向のユーザーにとって現実的な選択肢のひとつになりつつあります。

現時点での注目度とコミュニティの反応

リリース直後ということもあり、Qwen3の存在感はまだ限定的ですが、技術者コミュニティ内では徐々に導入が進みつつあります。

実際に、Hugging Face上でのフォークやスターが増えているほか、ローカル環境でLLMを動作させるツール「Ollama」でもQwen3が利用可能となり、開発者が手軽に試せる環境が整っています。

また、「ollama qwen3」や「qwen3 huggingface」といった具体的な導入キーワードがGoogle Trendsでも上昇しており、単なる話題性ではなく、“手を動かして評価している層”の関心が確実に広がっていることがうかがえます。

ビジネス利用における検討ポイントと懸念点

Qwen3はオープンソースとして公開されており、商用プロジェクトにも自由に組み込めるという点で、他の大規模モデルに対して優位性を持っています。

多言語対応、出力制御の柔軟性、ローカル実行環境との親和性といった特徴から、以下のようなユースケースでは導入検討の価値が高いでしょう:

  • 社内文書検索、FAQ応答など、制御性が重視される業務

  • 英語以外を含む多言語アプリケーションの開発

  • クラウド依存を避け、自社内でモデルを完結させたい企業

一方で、中国製AIモデルであることに対する懸念も、ビジネス利用において無視できない要素です。

2023年以降、中国国内では生成AIに関する政府規制が強化され、AIモデルに対しても「社会主義的価値観」に基づく情報統制が求められています。

これにより、中国国内向けのサービスでは、政治的・社会的に敏感なテーマについて応答しないよう“自己検閲的なチューニング”が行われている実例もあります。

ただし、Qwen3自体はオープンソースとしてグローバル向けに公開されており、GitHubやHugging Faceで自由に入手可能です。

現時点では、国外ユーザー向けに配布されているバージョンに明示的な検閲コードや遮断処理が含まれているという証拠はありません

それでも、政治的センシティブワードに対する応答制限や、訓練データに由来するバイアスの可能性は残されており、業務利用を検討する際には、想定される応答挙動を事前に十分確認することが推奨されます。

このように、Qwen3はコスト・導入性・柔軟性の観点で有力な選択肢である一方、中国製モデルならではの“透明性の壁”がつきまとう部分もあります。

他国製モデル(例:LLaMA 3やMistral)との比較を踏まえつつ、自社で許容できるリスクと得られる利点のバランスをどう見るかが、導入判断の鍵となるでしょう。

まとめ ― Qwen3の登場が静かに変える、LLM選定の選択肢

Qwen3のリリースは、大規模言語モデルの世界において、これまであまり注目されてこなかった“実装のしやすさ”や“ライセンスの柔軟さ”といった視点を改めて意識させる出来事でした。

DeepSeek-V3やLLaMA 3といった話題のモデルが並ぶ中で、Qwen3のように落ち着いた立ち位置で着実に選ばれつつあるモデルにも目を向けてみると、開発の選択肢が一段と広がるはずです。

私たちRabilooでは、さまざまなLLMの比較検討からPoC構築、ローカル環境での導入支援まで、技術実装に強みを持つ開発チームとして並走しています。

  • どのモデルが自社に合うか、まず整理したい

  • ローカル実行を前提に試したい

  • Qwen3や中国製LLMの導入で気をつけるべき点を確認したい

そんな段階でも、お気軽にご相談ください。

技術相談・導入検討のお問い合わせは下記のフォームから👇

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Kakimoto Kota
Rabilooのオウンドメディアで制作ディレクターを担当。日越翻訳、記事、動画、SNS、コンテンツの戦略立案から制作まで行う。2015年よりベトナム・ハノイ在住
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