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「うちの会社もDXをしなきゃいけないんだけど、IT化とDXは何が違うかよくわからない…」
このような悩みを抱えている経営者や管理職の方は少なくありません。
多くの企業がデジタル化による業務効率化を目指していますが、DXとIT化の違いがわからず、具体的な取り組み方に悩んでいます。
結論から言うと、IT化とDXは目的が大きく異なります。
IT化が「既存の業務を効率化する」ことを目指すのに対し、DXは「デジタル技術でビジネスモデルそのものを変革する」ことを目指します。
実は、DXに取り組んだ企業の約6割が「期待した効果が得られていない」と回答しています。その主な理由は、IT化とDXの違いを正しく理解できていないことにあると言っても過言ではありません。
そこでこの記事では、以下の内容について、具体例を交えて徹底的に解説します。
DXとIT化の本質的な違いと4つの決定的なポイント
業界別の具体的な事例で見るDXの取り組み方
IT人材不足でも始められるDX推進のステップ
失敗しないためのDX推進の実践ポイント
DXとIT化の違いは、IT化が「特定のアナログ業務をデジタル技術で効率化すること」なのに対し、DXは「デジタル技術でビジネスそのものを変革すること」です。IT化はDXの一部となりますが、目指すものが異なります。
ビジネスプロセスにおいてITを上手に取り入れると、業務が大幅に効率化します。これは一見すると「DXが進んだ」ように感じるかもしれませんが、IT化はDXではありません。
違いを理解するには、まず両者の定義をしっかりと押さえることが重要です。
では、具体的にどのような違いがあるのか、4つのポイントから見ていきましょう。
アナログからデジタルへの「置き換え」vs「変革」
部分最適と全体最適の違い
コスト削減の視点と価値を創造する視点
業務を効率化することと事業モデルそのものを変革することの違い
IT化とは、アナログで行っていた業務をデジタルに置き換えることです。例えば:
紙の申請書を電子フォームに変える
エクセルで管理していた顧客データをCRMシステムで管理する
手書きの経費精算を経費精算システムに移行する
コロナ禍におけるリモートワーク対応、サービスのオンライン化
IT(Information Technology)には、ハードウェアやソフトウェア、ネットワーク技術、データベース技術、セキュリティ技術など情報処理に関する技術が含まれます。
これに対してDX(Digital Transformation)は、デジタル技術を使って今までなかった価値を生み出す取り組みです。
例えば:
顧客データを分析して新しいサービスを開発する
IoTセンサーで製品の使用状況を把握し、予防保全サービスを始める
AIを活用して需要予測の精度を上げ、在庫の最適化を図る
つまり、IT化が「今あるものをデジタルに置き換える」のに対し、DXは「デジタルで新しい価値を創造する」という違いがあります。
▶︎【DXのXとは?】Digital Transformationの略がなぜ「DX」になるのか
IT化は、個々の業務プロセスの効率化を目指す「部分最適」が特徴です。
例えば:
経理部門の請求書処理の電子化
人事部門の勤怠管理システムの導入
営業部門の商談管理システムの実装
一方、DXは組織全体、さらにはビジネスモデル全体を見直す「全体最適」を目指します。
例えば:
全社データを統合し、部門を越えた意思決定の高度化
サプライチェーン全体のデジタル化による在庫の最適化
顧客接点のデジタル化による新しいビジネスモデルの創出
IT化が各部門の課題解決を目指すのに対し、DXは企業全体の変革を視野に入れているのです。
IT化の主な目的は「コスト削減」や「業務効率化」です。
具体的には:
人件費の削減
作業時間の短縮
ミスの削減
ペーパーレス化によるコスト削減
これに対してDXは「新しい価値の創造」を目指します:
データ分析による新規事業の創出
顧客体験の革新的な改善
デジタル技術を活用した新しい収益モデルの確立
つまり、IT化が「いかにコストを下げるか」という視点なのに対し、DXは「いかに新しい価値を生み出すか」という視点なのです。
IT化は既存の業務プロセスを効率化することが目的です。一方、DXは事業モデルそのものを変革することを目指します。
例えば、小売業での例を見てみましょう:
IT化の例
レジ業務のPOSシステム化
在庫管理システムの導入
受発注の電子化
DXの例
実店舗とECの在庫を統合し、どこからでも商品を届けられるオムニチャネル化
購買データを活用したパーソナライズドマーケティング
サブスクリプション型の新しいビジネスモデル導入
IT化が既存業務の改善に留まるのに対し、DXは事業の在り方自体を変えていくのが特徴です。
ここまで見てきたように、IT化とDXの違いは、「目的」と「手段」の違いです。つまりIT化はDXを進めるための手段です。
このような違いを理解した上で、自社のデジタル化戦略を考えることが重要です。ただし、DXに取り組むためには、まずIT化による基盤整備が必要不可欠です。
次のパートでは、具体的な業界別の事例を見ながら、それぞれの特徴をより詳しく見ていきましょう。
前章で解説したIT化とDXの違いを、実際の業界別の事例で見ていきましょう。同じデジタル技術を使う場合でも、その活用方法や目的によってIT化とDXは大きく異なります。
IT化の例:POSレジ導入
レジ打ちの自動化
バーコード読み取りによる在庫管理
売上データの集計効率化
これらは既存の業務を効率化する「IT化」の典型例です。
DXの例:オムニチャネル戦略
実店舗とECサイトの在庫を統合管理
顧客の購買履歴を分析し、パーソナライズされたレコメンドを提供
スマートフォンアプリと実店舗を連携させた新しい買い物体験の提供
AIによる需要予測を活用した在庫の最適化
これらは、デジタル技術を活用してビジネスモデル自体を変革する「DX」の例です。単なる効率化ではなく、顧客体験の向上や新しい価値の創造を目指しています。
IT化の例:生産管理システム
生産計画のデジタル化
部品の在庫管理システム
品質管理データの電子化
これらは製造現場の既存業務を効率化する取り組みです。
DXの例:スマートファクトリー
IoTセンサーによる設備の予知保全
AIを活用した生産ラインの自動最適化
デジタルツインによる製品開発プロセスの革新
製品使用データを活用した新しいサービスの創出
これらは製造業のビジネスモデルそのものを変革し、新しい価値を生み出す取り組みといえます。
IT化の例:予約管理システム
予約台帳のデジタル化
オンライン予約システムの導入
顧客データのデータベース化
これらは従来の予約業務を効率化する施策です。
DXの例:データ活用型経営
AIによる需要予測に基づいた動的価格設定
顧客の行動データを分析した新サービスの開発
チャットボットやAIを活用したカスタマーサービスの革新
デジタルマーケティングによる顧客体験の最適化
これらは、データとデジタル技術を活用して新しい価値を創出する取り組みです。
よくある失敗例1:IT化で満足してしまうケース
「基幹システムを刷新したからDXは完了」と考えてしまうケース。これはIT化は実現できていますが、ビジネスモデルの変革というDXの本質は達成できていません。
よくある失敗例2:現場を置き去りにするケース
最新のデジタル技術を導入したものの、現場の業務フローや組織文化の変革が伴わず、結果として使われないシステムになってしまうケース。
よくある失敗例3:部分最適で終わってしまうケース
各部門でバラバラにデジタル化を進めた結果、システムが連携できず、全社的な変革につながらないケース。
これらの事例から分かるように、IT化とDXは目指すものが異なります。次章では、自社に必要なのはIT化なのかDXなのか、その見極め方について解説していきます。
「とりあえずDXに取り組まなければ」と焦る前に、まずは自社の現状を正確に把握することが重要です。
実は、多くの企業にとって、今すぐDXに取り組むことが最適な選択とは限りません。ケースによっては、まずIT化による基盤整備から始めることが、より確実な成功への道筋となります。
では、自社に本当に必要なのは何か、具体的な判断基準を見ていきましょう。
①デジタル化の進捗度
以下のチェックリストで、まずは自社のデジタル化の現状を確認してみましょう。
□ 基幹システムが導入されている
□ 各部門でデータがデジタル化されている
□ ペーパーレス化が進んでいる
□ 情報共有がデジタルツールで行われている
□ 業務プロセスが標準化されている
3つ以下しかチェックがつかない場合は、まずIT化による基盤整備から始めることをお勧めします。
②組織の受容性
次に、組織としてのデジタル受容性を確認します。
□ 経営層がデジタル技術に理解がある
□ 社員のITリテラシーが一定水準にある
□ デジタル化に対する社内の抵抗が少ない
□ デジタル技術の活用に積極的な文化がある
□ 変革に対する柔軟性がある
こちらも3つ以下の場合は、段階的なIT化から始めることで、組織の受容性を高めていく必要があります。
③リソースの充実度
最後に、実行のためのリソースを確認します。
□ デジタル人材が社内にいる
□ デジタル投資の予算が確保できる
□ 外部パートナーとの連携実績がある
□ プロジェクトを推進できる人材がいる
□ 経営層のコミットメントが得られる
チェックが3つ以下の場合は、社内人材の育成や外部リソース(国内SIerやオフショア開発など)の活用を検討しながら、不足するリソースを補完しながらDXを進めることをお勧めします。
※社内リソースが足りない場合のDX推進に関しては、後ほど詳しく取り上げます。
関連記事:初めてでも安心!オフショア開発の進め方をステップバイステップで解説
中小企業(従業員300人以下)の場合
まずは業務効率化のためのIT化から着手
クラウドサービスの活用で初期投資を抑制
外部パートナーとの連携を積極的に検討
中堅企業(従業員300-1000人)の場合
IT化とDXの並行推進を検討
特定部門でのDXパイロット実施
成功体験を基に全社展開を図る
大企業(従業員1000人以上)の場合
全社的なDX戦略の策定
専門部署の設置によるDX推進
複数のDXプロジェクトの同時進行
デジタルインフラの整備
基幹システムの刷新
データ基盤の整備
セキュリティ対策の実施
人材・組織体制の構築
デジタル人材の確保・育成
推進体制の確立
変革を推進できる組織文化の醸成
管理の仕組み作り
デジタル投資が効果的に行われているか評価基準の設定
リスク管理体制の整備(問題が起きたときの対処法)
進捗管理の仕組み作り
このように、技術・人・仕組みの3つをバランスよく整えることで、DXを円滑に進められる環境が整います。
自社の現状をこれらの観点から総合的に判断し、適切なアプローチを選択することが重要です。無理にDXを推進するのではなく、着実に成果を出せる方法を選択しましょう。
次のパートでは、IT人材が不足している企業でも実践できるDX推進の具体的な手順について解説していきます。
「うちにはIT人材がいないから…」と、DX推進を躊躇している企業は少なくありません。確かにIT人材の確保は重要ですが、必ずしもIT専門家がいなくてもDXの第一歩を踏み出すことは可能です。
ここでは、IT人材が十分でない企業でも実践できる、具体的な3つのステップを解説します。
まずは、自社の現状と課題を客観的に把握することから始めます。
現在の業務フローの可視化
部門ごとの課題の洗い出し
顧客からの要望や不満の収集
競合他社の動向分析
市場トレンドの把握
この段階では、ITの専門知識よりも現場を知っている社員の声が重要です。現場の課題を丁寧に拾い上げることで、次のステップでの方向性が見えてきます。
すべてを一度に変えようとせず、小さな範囲で成功体験を作ることが重要です。
【具体的なアプローチ】
比較的取り組みやすい業務から着手
クラウドサービスの活用で初期投資を抑制
外部パートナーの知見を積極的に活用
効果測定の仕組みを事前に設計
成功事例を社内で共有
特に重要なのは、効果が見えやすい領域から始めることです。例えば:
紙の申請書の電子化
チャットツールの導入
オンライン会議システムの活用
クラウド型CRMの導入
小さな成功体験を基に、段階的に取り組みを拡大していきます。
【ポイント】
成功事例をモデルケースとして横展開
部門間の連携強化
データの統合と活用
社内研修による人材育成
継続的な改善サイクルの確立
IT人材が不足している場合、外部パートナーの活用が重要な鍵となります。
【外部パートナー選定の評価基準】
自社の業界への理解度
過去の支援実績
提案内容の具体性
コミュニケーション能力
価格の妥当性
【効果的な活用のポイント】
役割分担の明確化
定期的な進捗確認
知識移転の計画策定
社内人材の育成支援
中長期的な協力関係の構築
IT人材が不足していても、外部の知見を上手く活用することで、着実にDXを推進することは可能です。重要なのは、一足飛びに変革を目指すのではなく、段階的に成功体験を積み重ねていくアプローチです。
関連記事:ベンダーマネジメントとは?開発パートナーとの円滑な協力関係を築くコツを解説
DX推進に取り組む企業が増えていますが、実は約6割の企業が「期待した効果が得られていない」と回答しています。
参照:https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/it-modernization-survey2024.html
ここでは、DX推進でよく見られる失敗パターンとその対策について解説します。
「基幹システムを刷新したから、これでDXは完了」。このようにIT化を行なっただけで満足してしまうケースが非常に多く見られます。
しかし、IT化はDXではありません。
【よくある例】
基幹システムの刷新だけでDX完了とみなす
社内のデジタル化だけで満足する
業務効率化で終わってしまう
【対策】
経営層向けのDX勉強会の実施
他社の成功事例の研究
定期的な取り組みの棚卸しと方向性の確認
ビジネスモデル変革の視点を常に持つ
経営層の号令だけでDXを推進しようとして、現場との温度差が生まれてしまうケースです。
【典型的な失敗例】
現場の意見を聞かずにシステムを導入
形だけのDX推進部門の設置
過度に急進的な改革の強要
【対策】
現場を巻き込んだボトムアップ型の提案制度
中間管理職の役割明確化
段階的な目標設定
定期的な現場フィードバックの収集
最新のデジタル技術を導入したものの、現場の業務フローや組織文化の変革が伴わないケースです。
【よくある状況】
使いこなせないシステムの導入
現場の負担が増えるだけの改革
導入後のフォローが不十分
【対策】
現場主導のプロジェクトチーム結成
十分な研修期間の確保
ヘルプデスクの設置
段階的な機能リリース
これらの失敗を防ぐために、以下の3つのポイントを押さえましょう。
戦略の明確化
経営戦略とDXの整合性確保
具体的なKPIの設定
実現可能なロードマップの作成
組織体制の整備
現場と経営層の橋渡し役の設置
クロスファンクショナルなチーム編成
権限と責任の明確化
変革管理の実施
丁寧なコミュニケーション
小さな成功体験の積み重ね
継続的な改善サイクルの確立
DXの失敗は、多くの場合「技術」の問題ではなく、「人」と「組織」の問題です。技術の導入以上に、組織全体の変革マネジメントが重要になります。
この記事では、DXとIT化の違い、具体的な事例、推進方法について解説してきました。最後に、DXを成功に導くための重要なポイントをまとめます。
IT化:特定の業務をデジタル技術で効率化する
DX:デジタル技術で会社全体の仕事のやり方を抜本的に変える
IT化はDXの土台となる重要な要素
現状のデジタル化レベルを正確に把握
段階的なアプローチで着実に進める
無理にDXを急がず、必要に応じてIT化から始める
①経営戦略との整合性を確保
単なるデジタル化ではなく、経営課題の解決を目指す
明確なKPIと評価基準の設定
経営層の積極的な関与
②現場を巻き込んだ推進
現場の課題やニーズを丁寧に拾い上げる
小さな成功体験を積み重ねる
継続的な改善サイクルの確立
③組織全体での取り組み
部門を越えた協力体制の構築
人材育成と意識改革の推進
外部パートナーの効果的な活用
DXの推進は、一朝一夕には実現できません。重要なのは、自社の現状を正確に把握し、着実にステップを積み重ねていくことです。
まずは小さな範囲でIT化やDXの取り組みを始め、その成果を確認しながら、徐々に範囲を広げていくことをお勧めします。
Rabiloo(ラビロー)では、お客様のDX推進を支援するコンサルティングから、具体的なシステム開発まで、一貫してサポートいたします。DXについてお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
この記事が、皆様のDX推進の一助となれば幸いです。
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