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システム開発やアプリケーション開発を外部委託する際、開発ベンダーとの関係性は成功の鍵を握ります。しかし、多くの企業が開発ベンダーとの協力関係の構築や維持に課題を抱えているのが現状です。
たとえば以下のような悩みはありませんか?
開発ベンダーとの認識の違いで手戻りが多発する
コミュニケーションがうまくいかず、品質や納期に影響が出る
開発ベンダーの管理工数が予想以上にかかってしまう
複数の開発ベンダーを効率的にマネジメントできていない
この記事では、開発プロジェクトを成功に導くためのベンダーマネジメントの基本と実践的なノウハウについて解説し、どの企業でも実践できる具体的な方法を、豊富な事例を交えて説明していきます。
ベンダーマネジメントの基本的な考え方と重要性
開発パートナーとの効果的な関係構築の方法
複数ベンダーを管理する際の具体的な課題と対策
オフショア開発特有のマネジメントのポイント
プロジェクトを成功に導くための実践的なノウハウ
システム開発やアプリケーション開発において、開発ベンダーとの関係性をうまく構築・維持することは簡単なことではありません。ここでは、ベンダーマネジメントの基本的な考え方と、なぜそれが重要なのかについて解説します。
ベンダーマネジメントとは、開発パートナーである外部委託先(ベンダー)との関係を効果的に構築・維持・管理し、プロジェクトの目標達成を実現するための一連の活動のことです。
具体的には以下のような活動が含まれます。
ベンダーとの契約管理
進捗や品質の管理
コミュニケーション管理
リスク管理
コスト管理
近年、システム開発の規模が大きくなり、また技術の専門性も高まる中で、すべての開発を自社で行うことは現実的ではなくなってきています。
経済産業省の調査によると、2030年までに最大79万人のIT人材が不足すると言われています。そのため、多くの企業が開発ベンダーへの外部委託を活用しています。
しかし、ベンダーに任せきりにしてしまうと、以下のような問題が発生するリスクがあります。
品質の低下
コストの増大
スケジュールの遅延
要件との不整合
セキュリティリスク
こうした問題を防ぎ、プロジェクトを成功に導くためには、適切なベンダーマネジメントが不可欠となります。
▶︎システム開発を外注先に丸投げは危険!発注者が果たすべき責任とは?
効果的なベンダーマネジメントを実現するためには、以下の3つの視点が重要です。
パートナーシップの視点
開発ベンダーは単なる下請けではなく、プロジェクトの成功に向けた重要なパートナーです。対等な立場で協力し合える関係性を構築することが重要です。
プロジェクト管理の視点
進捗、品質、コスト、リスクなど、プロジェクトマネジメントの基本要素をしっかりと管理することが必要です。
コミュニケーションの視点
認識の違いや行き違いを防ぐため、密なコミュニケーションと情報共有の仕組みを確立することが大切です。
これら3つの視点のバランスを取りながら、ベンダーマネジメントを進めていくことで、プロジェクトの成功確率を高めることができます。特に開発の初期段階でこれらの基盤をしっかりと固めておくことが、その後の円滑な進行につながります。
成功するベンダーマネジメントのポイントは、開発パートナーと「win-win」の関係を築くことです。
開発パートナーとの円滑な関係構築は、プロジェクトの成否を左右する重要な要素です。多くのプロジェクトの失敗事例を分析すると、その原因の多くはパートナーとの関係性に起因していることがわかります。ここでは、開発パートナーとの関係構築において特に注意すべき5つのポイントについて、具体的に解説します。
プロジェクトの開始時に、発注者側とベンダー側の役割分担を明確にすることが重要です。以下の項目について、必ず合意を取っておきましょう。
意思決定プロセス
責任範囲と権限
報告ルート
定例会議の頻度と参加者
課題管理の方法
緊急時の連絡体制
これらのルールは、プロジェクト計画書やコミュニケーション計画書として文書化し、関係者全員で共有することをお勧めします。
開発の進捗状況は、週次や月次など定期的なタイミングで確認する必要があります。
具体的な進め方として以下が効果的です:
週次での進捗会議の開催
マイルストーンごとの成果物レビュー
リスク・課題の早期把握と対策検討
工数実績の定期的なモニタリング
特に重要なのは、問題が小さいうちに察知して対処することです。些細な遅れや品質の問題も、早期に把握して対応することで、大きな問題への発展を防ぐことができます。
開発成果物の品質を確保するためには、プロジェクト開始時に品質基準を明確にし、両者で合意しておくことが重要です。
押さえるべきポイントは以下の通りです:
成果物の受入基準
テスト基準と合格条件
コーディング規約
ドキュメント作成基準
レビュー基準
また、これらの基準は形骸化しないよう、定期的なレビューと改善を行うことが大切です。
プロジェクトの予算とスケジュールは、最も重要な管理項目の一つです。以下の点に注意して管理を行います:
WBSに基づく詳細なスケジュール管理
工数実績の把握と予実管理
変更管理による追加コストの管理
予算超過リスクの早期把握
特に注意すべきは、スケジュールの遅れは必ずコストに影響するということです。スケジュールの遅れを挽回するための追加工数は、往々にしてプロジェクトの収支を圧迫することになります。
システム開発では、開発途中での仕様変更は避けられません。重要なのは、変更に対して適切なプロセスを設けて対応することです。
仕様変更管理のポイントは以下の通りです:
変更管理プロセスの確立
影響範囲の適切な評価
コストとスケジュールへの影響の明確化
変更履歴の管理
関係者への確実な周知
仕様変更は、単にベンダー側に「お願い」して対応してもらうものではありません。適切な評価と合意のプロセスを経ることで、後々のトラブルを防ぐことができます。
ベンダーマネジメントは、これら5つのポイントを意識しながら、バランスよく実施していくことが重要です。
ベンダーマネジメントの重要性は理解できても、具体的にどのように実践すればよいのかわからない、という声をよく聞きます。ここでは、プロジェクトのフェーズごとに、具体的なベンダーマネジメントの手法について解説します。
プロジェクトの立ち上げ段階で、以下の点をしっかりと確認・合意することが重要です。
プロジェクトの目的とゴール
スコープと成果物の定義
マイルストーンと全体スケジュール
体制図と役割分担
コミュニケーションルール
課題管理の方法
特に重要なのは、ベンダー側のキーマンと十分なコミュニケーションを取り、プロジェクトの方向性を合わせることです。このフェーズでの認識合わせが不十分だと、後々大きな問題に発展する可能性があります。
効果的なコミュニケーションのために、以下のような具体的な施策を実施します:
朝会やデイリースクラムの実施
チャットツールの活用(Slack、Teamsなど)
課題管理ツールの活用(Backlog、Redmineなど)
週次進捗会議の定例化
オンライン・対面のハイブリッドな会議運営
重要なのは、形式的なコミュニケーションに終始せず、実質的な情報共有と課題解決ができる場を作ることです。
具体的な管理方法として、以下のようなアプローチが効果的です:
進捗管理
WBSベースの詳細な進捗把握
バーンダウンチャートの活用
マイルストーン管理の徹底
週次での予実管理
課題管理
課題管理表の定期更新
優先度と期限の明確化
担当者のアサイン
フォローアップの徹底
品質を確保するための具体的な施策として、以下を実施します:
コードレビューの実施
単体テスト、結合テストの計画と実施
テスト結果の可視化
品質メトリクスの測定と評価
定期的な成果物レビュー
特に重要なのは、問題の早期発見・早期対応です。テストやレビューで発見された問題は、すぐに対応することで、手戻りのリスクを最小限に抑えることができます。
トラブルは必ず発生するものという前提で、以下のような対応準備をしておきます:
エスカレーションルートの確立
問題の重要度に応じた報告ルート
意思決定者の明確化
緊急連絡先リストの整備
具体的な対応手順
状況の把握と影響範囲の特定
暫定対応と恒久対応の検討
関係者への適切な情報共有
再発防止策の検討と実施
トラブル発生時は冷静な判断が重要です。感情的になることなく、客観的な事実に基づいて対応を進めることが、問題の早期解決につながります。
プロジェクトの成功は、これらの実践的なマネジメント手法を適切に組み合わせて実施することで実現できます。
昨今の大規模なシステム開発では、一つのベンダーですべてを担当することは少なく、複数のベンダーが協力して開発を進めるケースが増えています。
しかし、複数ベンダーの管理は想像以上に難しく、多くの企業が頭を悩ませています。ここでは、複数ベンダーをマネジメントする際の具体的な課題と効果的な対策について解説します。
複数ベンダーが関わるプロジェクトでは、責任の所在があいまいになりがちです。
最も重要なのは、プロジェクト開始時点での明確な役割分担です。
各ベンダーの担当範囲を明確にし、特にインターフェース部分の責任範囲を詳細に定義する必要があります。
また、テスト工程での役割分担も重要です。どのベンダーがどの範囲のテストを担当し、不具合が発見された場合の対応フローをあらかじめ決めておく必要があります。これにより、問題発生時の混乱を最小限に抑えることができます。
ベンダー間の連携を促進するために、定期的な合同会議を開催することも効果的です。この場で技術的な課題の共同検討やリスクの共有を行うことで、ベンダー同士が「互いに他人事」とならない体制を構築できます。
複数のベンダーが関わるプロジェクトでは、情報の分散が大きな課題となります。この課題に対応するためには、プロジェクト情報を一元的に管理する仕組みが必要です。具体的には、すべてのベンダーが利用可能な共通のプロジェクト管理ツールを導入し、ドキュメントの共有環境を整備することが重要です。
進捗管理においては、統一されたフォーマットでの報告を徹底することで、プロジェクト全体の状況を正確に把握することができます。また、定期的な全体進捗会議を開催し、各ベンダーの作業状況や課題を共有することで、プロジェクト全体の方向性を合わせることができます。
複数ベンダー体制特有のリスクに対しては、契約面での整理が特に重要です。各ベンダーとの契約範囲を明確にし、瑕疵担保責任やSLA(サービスレベルアグリーメント)の設定、知的財産権の取り扱いなどを詳細に定めておく必要があります。
また、ベンダー間で技術レベルや品質基準にばらつきが出ないよう、プロジェクト全体での標準化を図ることも重要です。開発プロセスやコーディング規約、テスト基準などを統一することで、成果物の品質を一定に保つことができます。
特に注意が必要なのは、問題発生時の責任の所在です。
複数ベンダーが関わるプロジェクトでは、問題が発生した際に責任の押し付け合いが起きやすい傾向があります。
これを防ぐために、問題発生時の対応フローと責任範囲をあらかじめ明確に定めておく必要があります。
さらに、プロジェクトの成功に向けて、定期的なベンダー評価を実施し、必要に応じて改善を促すことも重要です。この際、特定のベンダーに偏ることなく、公平な立場での評価と調整を心がける必要があります。
また、プロジェクトの成功に向けた適切なインセンティブを設定することで、ベンダー間の協力関係を強化することができます。
複数ベンダーマネジメントの重要なポイント
プロジェクト開始前の役割分担と責任範囲の明確化
一元的な情報共有と進捗管理の仕組み作り
ベンダー間の技術標準とプロセスの統一
問題発生時の責任所在と対応フローの事前定義
定期的なベンダー評価と公平な調整
これらのポイントを押さえた上で、発注者がリーダーシップを発揮し、ベンダー間の協力体制を築くことが、プロジェクト成功の鍵となります。
近年、IT人材不足を背景に、ベトナムやフィリピンなどアジア諸国へのオフショア開発が増加しています。オフショア開発白書2023年版によると、エンドユーザー企業からのオフショア開発の需要が年々高まっているものの、言語や文化の違いによるコミュニケーションの課題が依然として大きいことが分かっています。ここでは、オフショア開発特有のベンダーマネジメントのポイントについて解説します。
オフショア開発で最も重要なのは、言語や文化の違いを理解した上でのコミュニケーション戦略です。日本語特有の曖昧な表現や、言葉にしなくても分かるはずという前提は、海外のエンジニアには通用しません。
例えば「できれば」「なるべく」といった表現は、海外では「必須ではない」と解釈される可能性が高くなります。
そのため、オフショア開発では、すべての指示や要望を具体的に言語化することが重要です。また、文章だけでなく、図や表を使って視覚的に説明することで、認識の違いを防ぐことができます。特に技術的な内容や仕様の説明では、具体例を交えながら説明することで、相手の理解度を高めることができます。
また、文化的な違いへの配慮も欠かせません。例えば、日本では当たり前の「察する」文化が、海外では通用しないことを理解しておく必要があります。相手の国の商習慣や考え方を理解し、それに合わせたコミュニケーションを心がけることが、プロジェクトを成功に導く鍵となります。
▶︎オフショア開発でよくある失敗事例と成功するための7つの対策!
時差は一見するとコミュニケーションの障害になるように思えますが、うまく活用することで24時間開発体制の構築も可能です。例えば、日本での業務終了時にタスクを依頼し、翌朝までに成果物を受け取るという開発サイクルを確立することで、効率的な開発が可能になります。
ただし、この体制を機能させるためには、タスクの依頼内容を明確にし、質問事項があった場合の対応手順もあらかじめ決めておく必要があります。また、定例会議の時間帯は、双方の勤務時間が重なる時間帯に設定するなど、細かな工夫も重要です。
非同期のコミュニケーションツールを活用することも効果的です。チャットやタスク管理ツールを使うことで、時差があっても必要な情報が確実に伝わる体制を作ることができます。
▶︎【ベトナムと日本の時差】ハノイとホーチミンまでの飛行時間や時差ボケは?
オフショア開発では「ブリッジSE」と呼ばれるポジションのエンジニアが日本と海外チームの間に入ってコミュニケーションを取り持ちます。
ブリッジSEは単なる通訳ではなく、技術的な知識と経験を持ち、プロジェクトマネジメントのスキルも備えた、両国の架け橋となる重要な人材です。
優秀なブリッジSEの存在は、コミュニケーションの質を大きく向上させます。技術的な文脈を理解した上で、適切な翻訳や解釈を行い、双方の意図を正確に伝えることができます。また、文化的な違いによる誤解を未然に防ぐ役割も果たします。
しかし、ブリッジSEへの過度な依存は避けるべきです。ブリッジSEに頼りきりになると、プロジェクト全体がその人物に依存してしまい、不在時のリスクが高まってしまいます。発注側でもオフショア開発のノウハウを蓄積し、組織としての対応力を高めていく必要があります。
オフショア開発は確かに様々な困難を伴いますが、これらのポイントを押さえた適切なベンダーマネジメントを行うことで、コスト削減だけでなく、グローバルな視点での開発体制構築という大きなメリットを得ることができます。
ブリッジSEについて詳しくは以下の記事をご覧ください。
▶︎ブリッジSE【BrSE】とは?役割と必要なスキルを具体的に解説!
この記事では、開発プロジェクトを成功に導くためのベンダーマネジメントについて、基本的な考え方から実践的なノウハウまで詳しく解説してきました。
ベンダーマネジメントは、単なる進捗管理やコスト管理ではありません。開発パートナーとの信頼関係を構築し、共通のゴールに向かって協力していく体制作りが重要です。特に近年は、複数ベンダーやオフショア開発など、マネジメントの難易度が上がっているため、より戦略的なアプローチが求められています。
プロジェクトの成功には、「コミュニケーションを重視した関係構築」「明確な役割分担と責任範囲の設定」「効果的な情報共有の仕組み作り」が不可欠です。これらは、国内開発でも、オフショア開発でも、複数ベンダー体制でも共通して重要な要素となっています。
開発パートナーとの信頼関係構築を最優先する
プロジェクト開始時に役割と責任を明確にする
効果的なコミュニケーション手段を確立する
情報共有と進捗管理の仕組みを整備する
問題の早期発見と迅速な対応を心がける
Rabiloo(ラビロー)は、ベトナムトップの工科大学出身のエンジニアリソースを抱え、国際基準の品質管理体制を確立しています。豊富な実績に基づく効率的なプロジェクトマネジメントには定評があり、多くのお客様から高い評価をいただいています。
ベンダーマネジメントでお悩みの企業様、新規でオフショア開発をお考えの企業様は、ぜひRabilooにご相談ください。お客様のプロジェクト成功に向けて全力でサポートいたします。
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