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AI(人工知能)やVR(仮想現実)などのデジタル技術が目まぐるしく進歩していく中、ビジネス環境は日々変化し、競争が激化しています。
このような状況下で、IT開発はかつてないほどの拡張性と柔軟性が求められるようになりました。
そこで近年注目されているのが「マイクロサービス化」です。マイクロサービスは、大規模な開発を、ビジネス機能ごとに独立した小さなサービスに分けて、それらを組み合わせることによって、アプリケーションを構築する方法です。
全体として、マイクロサービス化は多くの利点を提供できる強力なアーキテクチャパターンです。ただし、マイクロサービス化を採用する前に、潜在的な課題を認識することが重要です。
本記事では、マイクロサービスを導入することの利点と、マイクロサービス化の向き不向きについて解説していきます。
マイクロサービスとは、ソフトウェアの作り方の一つで、大規模なアプリケーションを小さな独立したパーツに分けて作る方法です。これらのパーツはそれぞれが独立して機能し、全体のアプリケーションを構成します。細分化された各パーツは「サービス」と呼ばれます。
各マイクロサービスは、特定の機能を提供し、独自のコードベース、データベース、およびAPIを持ちます。
例えば、ECサイトを例に取ると、ユーザー登録や商品検索などの機能をそれぞれ別のパーツとして作り、それらを組み合わせてサービスを構築します。このようにすることで、柔軟性や拡張性が向上し、大規模なシステムの開発や運用がしやすくなります。
このような開発構造を、マイクロサービスアーキテクチャといいます。アーキテクチャとはシステムの基本的な骨組みのことです。
従来の開発方法は、通常モノリシック(一枚岩)なアーキテクチャを採用しています。このアーキテクチャでは、アプリケーション全体が一つの大きな単位として構築され、機能や処理が統合されています。
モノリシックでは、データベース、ビジネスロジック、ユーザーインターフェースなどの異なる機能が同じコードベース内に統合されます。そのため、開発者はアプリケーション全体を理解し、管理する必要があります。
この開発方法では、変更や拡張が困難であり、ある機能のアップデートが他の機能にも影響を及ぼす可能性があります。大規模なシステムでは、全体のコードベースが巨大になり、開発やテストに時間がかかる傾向があります。
マイクロサービス化とは、大きなソフトウェアやアプリケーションを小さなパーツに分けて開発することです。通常、ソフトウェアは一つの大きな塊のような形で作られていますが、マイクロサービス化では、その塊を小さなパズルのピースのように分割します。
それぞれのパズルのピースは、特定の機能や仕事を担当します。例えば、ユーザー管理やメッセージ送信など、一つのパズルピース(サービス)は一つの具体的な仕事をしています。
マイクロサービス化を行うと、パズルのピース(サービス)ごとに開発や保守が行われます。それぞれのサービスは独立して動作し、必要に応じて追加や変更が容易になります。また、必要なときに必要な数のサービスを組み合わせてアプリケーションを構築することができます。
マイクロサービスとよく似た機能を提供するものとしてAPIがあります。
マイクロサービスとAPIにはどんな違いがあるのでしょうか。
簡単に言えば、マイクロサービスはアプリケーションの構築方法であり、大規模なアプリケーションを小さな独立した部分に分けるためのアーキテクチャです。一方、API(Application Programming Interface)は異なるソフトウェア間の通信を可能にするためのインターフェースです。
▶︎APIとは?開発でAPI連携を使うメリットを簡単にわかりやすく解説!
従来の開発方法と比較して、マイクロサービスで開発することには以下のようなメリットがあります。
柔軟性と迅速な開発
スケーラビリティとパフォーマンス
チームの効率化
高い信頼性と可用性
マイクロサービスでは、新しい機能の追加や変更を素早く行うことができます。一つのサービスに問題があっても他のサービスに影響を及ぼさず、個別に修正やアップデートができるので、素早い開発が可能です。アジャイルとの相性も良いです。
さらに、開発チームが一度作った機能のソースコードは別の開発に再利用でき、わざわざ1からプログラムを書く必要はありません。
スピード感が求められる現代の開発現場においてこれは大きなメリットです。
マイクロサービスでは、各サービスを必要に応じて独立してスケールアップできます。つまり、特定のサービスだけにリソースを割り当てて処理能力を高めることができます。これにより、トラフィックの増加や処理の負荷に応じてシステムやサーバーを拡張でき、パフォーマンスを維持できます。
マイクロサービスは、それぞれが独立して開発・保守されるため、複数の開発チームが同時に作業できます。それぞれのチームは特定のサービスに専念できるため、開発の効率が向上します。さらに、異なる技術やツールを使用できるため、開発者が得意とする分野で最高のパフォーマンスを発揮できます。
モノリシックで構築したシステムは、障害が生じるとシステムを全部止めなければなりません。しかし、マイクロサービスでは特定のサービスがダウンしても他のサービスは正常に動作し続けるため、ユーザーエクスペリエンスに悪影響をほとんど与えません。
一方、マイクロサービスにはどんなデメリットがあるでしょうか。
マイクロサービスはあまりに細かくなりすぎると、逆に管理が複雑になり、モノリシックになってしまいます。
マイクロサービス化を採用する前に、以下の潜在的な課題を認識しておく必要があります。
システム全体の複雑さ
分散システムの課題
デプロイメントと運用の複雑さ
チームの協調とコミュニケーション
テストの複雑さ
マイクロサービスは複数の小さなサービスから構成されます。それぞれのサービスは独立して開発・運用されるため、全体のシステムの複雑さが増します。各サービスの相互連携やデータの整合性を確保するために、しっかりとした設計と管理が必要となります。
マイクロサービスは分散システムとして機能します。サービス間の通信や相互作用、データの整合性の確保など、分散システムに関連する課題が発生します。ネットワークの遅延や障害による影響、トランザクションの一貫性の確保などに対処する必要があります。
マイクロサービス環境では、複数のサービスが同時にデプロイされることが一般的です。新しいサービスの追加や既存のサービスの更新、依存関係の管理など、デプロイメントと運用の調整が必要です。また、サービスの監視、スケーリング、障害対応など、運用における複雑さも増します。
マイクロサービスでは、各サービスを開発・運用するための複数のチームが関与します。それぞれのチームが独立して作業するため、チーム間の協調とコミュニケーションが重要です。適切な情報共有や調整がなされないと、サービス間の整合性や一貫性の維持が難しくなる場合があります。
マイクロサービス環境では、各サービスの単体テストだけでなく、サービス間の統合テストも重要です。複数のサービスの相互作用やデータの流れを確認するため、テストの規模や複雑さが増します。
マイクロサービス化が注目されている背景には、以下のような要素が関係しています。
特に今のビジネス環境では、目まぐるしいトレンドの変化や成長に対応するために、アプリケーションの柔軟性と拡張性が求められています。
マイクロサービス化は、アプリケーションを小さな独立した部品に分割することで、変更や拡張を容易にし、必要に応じて個別のサービスをスケールアップできる柔軟性を提供します。
マイクロサービスアーキテクチャは、アジャイルな開発プロセスと相性が良いことも注目されている理由の一つです。小さなチームが個々のサービスに取り組むことで、素早くイテレーションを回し、新機能や改善を迅速にデプロイできます。これにより、ビジネスニーズや市場の変化に素早く対応できるようになります。
▶︎【わかりやすく説明】アジャイル開発とは?開発の流れと3つの手法
クラウドコンピューティングの普及により、インフラやリソースのオンデマンド提供が可能になりました。マイクロサービス化は、クラウドのメリットを最大限に活用しやすくします。各サービスは独立してデプロイでき、必要に応じてスケーリングやフェイルオーバーが行えます。
▶︎【初心者でもわかる】クラウドサービスとは?わかりやすく解説!
マイクロサービス化は、開発チームの分散作業や自律性をサポートします。各サービスは独自の責任範囲を持ち、異なる技術スタックや開発言語を使用できます。これにより、チームはより専門化された開発に集中し、イノベーションを推進することができます。
マイクロサービスはさまざまな業種のシステムで用いられています。以下はマイクロサービス導入の例です。
オンラインショッピングサイト
SNS
メディアストリーミングサービス
オンラインショッピングサイトは、商品の検索、カートへの追加、支払いなどのさまざまな機能を提供します。これらの機能は、それぞれ独立したサービスとして実装されています。
Amazonでもマイクロサービスが導入されています。
▶︎オンライン決済Stripeとは?初心者向けにわかりやすく解説
ソーシャルメディアプラットフォームは、ユーザープロフィール、投稿、コメントなどのさまざまな機能を提供します。これらの機能は、それぞれ独立したサービスとして実装されています。これにより、各機能は独立して変更およびデプロイできるため、システムの柔軟性とスケーラビリティが向上します。
LINEや Twitterなどの企業でマイクロサービスが導入されています。
▶︎Twitterによるログイン【SNS認証】を実装する方法を簡単に解説
メディアストリーミングサービスでは、ユーザー認証、コンテンツ管理、再生制御、おすすめ機能などを個別のマイクロサービスとして構築することがあります。各サービスは独立して開発され、柔軟な拡張性とパフォーマンスを提供します
Netflixがその代表的な例です。
マイクロサービス化は、すべてのシステムにとって必ずしも適しているわけではありません。システムの規模や要件、組織の能力に合わせて検討する必要があります。
システムが複雑で大規模な場合、マイクロサービス化は適しています。システムを複数の小さなサービスに分割することで、開発や保守のしやすさ、スケーラビリティが向上します。
システム内に異なる機能や要件が存在する場合、それぞれを個別のマイクロサービスとして切り出すことで、開発の独立性や柔軟性を高めることができます。
マイクロサービスは、各サービスを個別のチームが開発・運用することが一般的です。組織内で独立したチームを形成し、迅速な開発やイノベーションを実現することが可能です。
小規模なアプリケーションや単純な要件を持つ場合、マイクロサービス化はオーバーエンジニアリングとなります。モノリシックなアーキテクチャの方がシンプルで適切です。
マイクロサービス化は、システムを複数のサービスに分割するため、開発・デプロイの手間が増えます。開発速度が最優先の場合には、モノリシックなアプローチが適しています。
マイクロサービス化には適切なインフラストラクチャや開発リソースが必要です。組織がこれらの要件を満たしていない場合、マイクロサービス化は困難かもしれません。
本記事では、近年注目されている開発手法であるマイクロサービスについて解説しました。
マイクロサービスは大規模なシステムを小さな単位に分けて開発し、柔軟に拡張やアップデートに対応できる開発手法で、多くの開発現場で採用されています。
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