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Nginxでロードバランサーを構築する|サーバー負荷分散の基本と実践設定
ECサイトやWebサービスで、アクセスが集中してサイトが重くなったり、最悪の場合サーバーがダウンしてしまった経験はありませんか?
こうしたトラブルの原因は、1台のサーバーへの負荷集中です。特にセールやキャンペーン時には、アクセス急増でサーバーダウンのリスクが高まります。
結論から申し上げると、Nginxを使ったロードバランサーの導入で、この問題は解決できます。
実は、複数のサーバーに処理を振り分ける「負荷分散」の仕組みを導入すれば、1台のサーバーに負荷が集中するのを防ぎ、安定したサービス提供が可能になります。Nginxなら、オープンソースで無料、かつシンプルな設定で実現できます。
この記事では、Nginxを使ったロードバランシングの基本から、実務でそのまま使える設定まで、必要最小限に絞って解説します。
なぜサーバーの負荷分散が必要なのか
Nginxロードバランサーの基本的な仕組み
実務で使える具体的な設定方法(コピペで動く設定例)
負荷分散の方法(アルゴリズム)の選び方
なぜサーバーの負荷分散が必要なのか
Webサービスやアプリケーションを運用していると、必ずぶつかる壁が「アクセス集中時のサーバー負荷」です。特に、ECサイトのセール開始直後や、テレビで紹介された直後など、予想を超えるアクセスが殺到すると、サーバーが悲鳴をあげます。
では、なぜ1台のサーバーだけでは対応できないのでしょうか。そして、複数のサーバーとロードバランサーを組み合わせることで、どのような問題が解決できるのでしょうか。
1台構成のサーバーで起こる3つの問題
従来のシステムでは、すべてのユーザーからのリクエストを1台のサーバーで処理していました。しかし、この構成には大きな問題があります。
1. サーバーへの過大な負荷
アクセスが集中すると、1台のサーバーがすべてのリクエストを処理しなければなりません。CPUやメモリのリソースが限界に達すると、処理速度が極端に遅くなります。例えば、通常1秒で表示されるページが10秒、20秒とかかるようになり、ユーザーは待ちきれずに離脱してしまいます。
2. レスポンスの大幅な遅延
サーバーが処理しきれないリクエストは、キューに溜まっていきます。つまり、後から来たユーザーは、前のユーザーの処理が終わるまで待たされることになります。ビジネスの機会損失につながるだけでなく、ユーザー体験を大きく損ないます。
3. サーバーダウンのリスク増加
最悪の場合、サーバーのリソースが完全に枯渇し、サーバーがダウンしてしまいます。1台構成では、そのサーバーがダウンした瞬間にサービス全体が停止します。復旧するまでの間、すべてのユーザーがサービスを利用できなくなり、ビジネスに致命的な影響を与えます。
ECサイトなら売上機会の損失、銀行システムなら顧客の信頼失墜、予約システムなら予約業務の完全停止など、業種を問わず深刻な事態を招きます。
複数サーバー+ロードバランサーで解決できること
これらの問題を解決するのが、複数のサーバーとロードバランサーを組み合わせた構成です。ロードバランサーは、ユーザーからのリクエストを複数のサーバーに振り分ける「交通整理」の役割を果たします。
負荷の分散による安定性の向上
例えば、1台で処理していたリクエストを3台のサーバーで分担すれば、各サーバーの負荷は理論上3分の1になります。これにより、アクセスが集中しても、各サーバーが余裕を持って処理できるようになり、レスポンス速度を維持できます。
システムの継続稼働を実現
さらに重要なのが、冗長性の確保です。複数台のサーバー構成なら、1台がダウンしても他のサーバーが処理を引き継ぎます。ロードバランサーは障害が発生したサーバーを自動的に検知し、正常なサーバーにのみリクエストを振り分けます。つまり、サービスを止めることなく運用を続けられるのです。
柔軟な拡張性
ビジネスの成長に合わせて、サーバーを追加するだけで処理能力を増やせます。ロードバランサーの設定にサーバーを追加するだけで、システム全体の性能を向上させられます。逆に、アクセスが落ち着いた時期にはサーバーを減らしてコストを最適化することも可能です。
このように、ロードバランサーを導入することで、システムの安定性、可用性、拡張性が飛躍的に向上します。そして、これを実現する強力なツールが、次に解説するNginxです。
Nginxロードバランサーの仕組みと役割
サーバーの負荷分散が必要な理由がわかったところで、次はその実現手段であるNginxについて理解を深めましょう。Nginxは世界中の大規模サイトで採用されている、信頼性の高いオープンソースソフトウェアです。
ここでは、Nginxとは何か、そしてロードバランサーとしてどのように機能するのかを解説します。
Nginxとは?無料で使える高性能Webサーバー
Nginx(エンジンエックス)は、2004年にロシアのエンジニアIgor Sysoevによって開発された、高性能なWebサーバーソフトウェアです。オープンソースで無料で利用でき、世界中の多くのWebサイトやアプリケーションで採用されています。
Nginxの最大の特徴は、大量の同時接続を効率的に処理できる点です。従来のWebサーバーが1つのリクエストに1つのプロセスを割り当てる方式だったのに対し、Nginxは非同期イベント駆動という仕組みを採用しています。
わかりやすく例えると、従来のWebサーバーは「1人の店員が1人のお客様を最後まで対応する」方式でした。そのため、お客様が多いと店員が足りなくなります。一方、Nginxは「複数の店員が複数のお客様を同時並行で効率よく対応する」イメージです。待ち時間が発生したら次のお客様に対応するため、少ない人数でも多くのお客様をさばけます。
この仕組みにより、Nginxは少ないメモリ消費で、数万から数十万の同時接続を処理できます。まさに、アクセスが集中するサイトに最適なソフトウェアです。
ロードバランサーが果たす「交通整理」の役割
Nginxはロードバランサーとしても優れた機能を持っています。ロードバランサーの役割を一言で表すなら、「交通整理」です。
道路の交通整理を思い浮かべてください。交差点に警察官が立って、車の流れを見ながら「こちらの道へ」「あちらの道へ」と誘導しています。これと同じように、ロードバランサーはユーザーからのリクエスト(アクセス)を見て、最適なサーバーへ振り分けます。
具体的には、以下のような役割を果たします
まず、稼働中のサーバーにのみリクエストを送ります。障害で停止しているサーバーには決してリクエストを送りません。これにより、ユーザーがエラー画面を見ることなく、常に正常なサーバーでサービスを受けられます。
次に、各サーバーの負荷状況を考慮して、リクエストを効率よく分散させます。1台のサーバーだけに負荷が集中することがないよう、バランスよく振り分けます。
さらに、サーバーの追加や削除を柔軟に行えます。アクセスが増えてきたらサーバーを追加し、落ち着いたら減らすといった調整が、サービスを止めることなく可能です。
リクエストを複数サーバーに振り分ける仕組み
では、Nginxのロードバランサーは実際にどのようにリクエストを振り分けるのでしょうか。基本的な流れを見ていきましょう。
ステップ1:ユーザーからのリクエストを受け取る
ユーザーがブラウザでWebサイトにアクセスすると、そのリクエストはまずNginxロードバランサーに届きます。Nginxはいわば「受付窓口」として、すべてのリクエストを一旦受け止めます。
ステップ2:適切なバックエンドサーバーを選択
Nginxは、あらかじめ設定されたルール(負荷分散アルゴリズム)に従って、リクエストを処理するサーバーを選択します。例えば、「順番に振り分ける」「処理中のリクエストが少ないサーバーを選ぶ」「同じユーザーは同じサーバーに送る」など、さまざまな方法があります。
ステップ3:選択したサーバーにリクエストを転送
選択されたバックエンドサーバーに、リクエストを転送します。このとき、Nginxはユーザーの情報(IPアドレスなど)も一緒に送ることで、バックエンドサーバーが正しく処理できるようにします。
ステップ4:サーバーからのレスポンスをユーザーに返す
バックエンドサーバーが処理を完了すると、その結果(Webページのデータなど)をNginxに返します。Nginxはそれを受け取り、ユーザーのブラウザに送り返します。
ユーザーから見ると、Nginxロードバランサーの存在は見えません。あたかも1台のサーバーと通信しているように感じます。しかし、裏側では複数のサーバーが協力して処理を分担しているのです。
この仕組みにより、アクセスが集中しても安定したレスポンスを維持でき、1台のサーバーがダウンしてもサービスを継続できる、強固なシステムが実現できます。
次に、実際にNginxでロードバランシングを実装する具体的な設定方法を見ていきましょう。
Nginxでロードバランシングを実装する基本設定
ここからは、実際にNginxでロードバランシングを設定する方法を解説します。この章を読めば、すぐに動作する設定ファイルを作成できるようになります。
難しそうに感じるかもしれませんが、基本的な設定は驚くほどシンプルです。順を追って見ていきましょう。
最小構成の設定例|upstreamとproxy_pass
Nginxでロードバランシングを実現するには、たった2つの要素を理解すれば十分です。それが「upstream」と「proxy_pass」です。
upstreamディレクティブは、リクエストを振り分ける先のサーバーグループを定義します。いわば「チームメンバーのリスト」です。
proxy_passディレクティブは、受け取ったリクエストをそのサーバーグループに転送する指示です。「このチームに仕事を任せる」という命令だと考えてください。
以下が最もシンプルな設定例です。
http {
upstream backend {
server 192.168.1.10:8080;
server 192.168.1.11:8080;
server 192.168.1.12:8080;
}
server {
listen 80;
location / {
proxy_pass <http://backend>;
}
}
}
この設定を読み解いてみましょう。
upstream backend { ... } の部分で、「backend」という名前のサーバーグループを定義しています。この例では、3台のサーバー(192.168.1.10、192.168.1.11、192.168.1.12)をグループに登録しています。ポート番号の8080は、各サーバーでアプリケーションが動いているポートです。
server { listen 80; ... } の部分は、Nginx自身がポート80番(HTTP)でリクエストを受け付けることを意味します。
proxy_pass <http://backend>; で、受け取ったすべてのリクエストを、先ほど定義した「backend」グループに転送します。
この設定だけで、Nginxは3台のサーバーにリクエストを順番に振り分けるようになります。設定ファイルを保存して、Nginxを再起動すれば、すぐにロードバランシングが動き出します。
実務で必須の設定を追加する(ヘッダー転送・タイムアウト)
先ほどの最小構成でも動作しますが、実務で使うにはいくつかの設定を追加する必要があります。特に重要なのが、ヘッダーの転送とタイムアウトの設定です。
ヘッダー転送が必要な理由
バックエンドサーバーは、リクエストを送ってきたのが「ユーザー」なのか「Nginxロードバランサー」なのかを区別できません。何も設定しないと、すべてのリクエストがNginxから来たように見えてしまい、ユーザーの本当のIPアドレスやアクセス元の情報が失われます。
これを防ぐために、以下のヘッダーを転送する設定が必須です。
proxy_set_header Host $host;
proxy_set_header X-Forwarded-For $proxy_add_x_forwarded_for;
proxy_set_header X-Forwarded-Proto $scheme;
Host ヘッダーは、ユーザーがアクセスした元のドメイン名を保持します。X-Forwarded-For は、ユーザーの実際のIPアドレスを記録します。X-Forwarded-Proto は、ユーザーがHTTPとHTTPSのどちらでアクセスしたかを伝えます。
タイムアウト設定で安定性を確保
バックエンドサーバーの応答が遅い場合や、障害で応答がない場合に備えて、タイムアウトを設定します。
proxy_connect_timeout 5s;
proxy_send_timeout 60s;
proxy_read_timeout 60s;
proxy_connect_timeout は、バックエンドサーバーへの接続を確立する待ち時間です。5秒以内に接続できなければ、そのサーバーは問題があると判断します。
proxy_send_timeout と proxy_read_timeout は、データの送受信時のタイムアウトです。60秒応答がなければ、次のサーバーにリトライします。
リトライの設定
バックエンドサーバーがエラーを返した場合に、自動的に別のサーバーにリトライする設定も追加しましょう。
proxy_next_upstream error timeout http_502 http_503 http_504;
この設定により、ネットワークエラー、タイムアウト、502/503/504エラーが発生した場合、Nginxは自動的に次のサーバーにリクエストを送り直します。ユーザーはエラーを見ることなく、正常なサーバーからレスポンスを受け取れます。
コピペで使える完全な設定ファイル例
ここまでの内容をすべて含めた、実務でそのまま使える完全な設定ファイルを示します。
http {
# バックエンドサーバーグループの定義
upstream backend {
server 192.168.1.10:8080;
server 192.168.1.11:8080;
server 192.168.1.12:8080;
}
server {
listen 80;
server_name example.com;
location / {
# バックエンドサーバーへリクエストを転送
proxy_pass <http://backend>;
# ヘッダーの転送設定
proxy_set_header Host $host;
proxy_set_header X-Forwarded-For $proxy_add_x_forwarded_for;
proxy_set_header X-Forwarded-Proto $scheme;
proxy_set_header X-Real-IP $remote_addr;
# タイムアウト設定
proxy_connect_timeout 5s;
proxy_send_timeout 60s;
proxy_read_timeout 60s;
# エラー時のリトライ設定
proxy_next_upstream error timeout http_502 http_503 http_504;
}
}
}
この設定ファイルを /etc/nginx/nginx.conf または /etc/nginx/conf.d/loadbalancer.conf に保存します。IPアドレスとポート番号、ドメイン名(server_name)を自分の環境に合わせて変更してください。
設定ファイルを保存したら、以下のコマンドで設定の文法チェックを行います。
sudo nginx -t
「syntax is ok」と表示されれば、設定に問題ありません。次のコマンドでNginxを再起動します。
sudo systemctl reload nginx
これで、ロードバランサーが動き始めます。ブラウザで http://example.com にアクセスすると、3台のサーバーのいずれかが応答を返すようになります。
この基本設定をベースに、次の章では負荷分散の方法(アルゴリズム)を選択して、さらに最適化していきましょう。
負荷分散の方法(アルゴリズム)を選ぶ
基本的な設定でロードバランシングが動くようになりましたが、実はリクエストの振り分け方にはいくつかの方法があります。これを「負荷分散アルゴリズム」と呼びます。
どのアルゴリズムを選ぶかによって、システムの効率や安定性が大きく変わります。ここでは、Nginx OSSで使える3つの主要なアルゴリズムと、その使い分け方を解説します。
ラウンドロビン|順番に振り分けるデフォルト設定
ラウンドロビンは、Nginxのデフォルトの負荷分散方式です。先ほどの基本設定で、特に何も指定しなければ、この方式が自動的に使われます。
仕組みはとてもシンプルです。サーバーを円状に並べて、順番にリクエストを振り分けていきます。1番目のリクエストはサーバーA、2番目はサーバーB、3番目はサーバーC、そして4番目は再びサーバーAに戻る、という具合です。
upstream backend {
server 192.168.1.10:8080;
server 192.168.1.11:8080;
server 192.168.1.12:8080;
}
この設定では、3台のサーバーに均等にリクエストが分配されます。
ラウンドロビンのメリットは、設定が簡単で理解しやすい点です。各サーバーのスペックが同じで、処理時間もほぼ同じような場合には、非常に効果的に動作します。
ただし、注意点もあります。リクエストの処理時間がバラバラな場合、問題が起こる可能性があります。例えば、サーバーAが重い処理を実行中で、まだ2つのリクエストを処理している最中だとします。しかし、ラウンドロビンは処理状況を考慮せず、順番が来れば容赦なくサーバーAに新しいリクエストを送ります。結果として、サーバーAだけ過負荷になることがあります。
とはいえ、多くのWebアプリケーションでは、リクエストの処理時間はそれほど大きく変わりません。そのため、ラウンドロビンで十分に機能するケースが多いのも事実です。
最小接続数|処理中のリクエストが少ないサーバーを優先
最小接続数(least_conn)は、より賢い振り分け方式です。各サーバーが現在処理しているリクエストの数を監視し、最も少ないサーバーに新しいリクエストを送ります。
設定は、upstream ブロックに least_conn; を1行追加するだけです。
upstream backend {
least_conn;
server 192.168.1.10:8080;
server 192.168.1.11:8080;
server 192.168.1.12:8080;
}
動作イメージを見てみましょう。サーバーAが3つのリクエストを処理中、サーバーBが1つ、サーバーCが2つのリクエストを処理中だとします。この状態で新しいリクエストが来ると、Nginxは最も空いているサーバーB(接続数1)にリクエストを送ります。
この方式の最大のメリットは、負荷の偏りを防げることです。処理に時間がかかるリクエストがあっても、自動的に空いているサーバーにリクエストが流れるため、全体のバランスが保たれます。
どんな場合に使うべきかというと、リクエストの処理時間にバラつきがある場合です。例えば、画像処理や複雑なデータベースクエリなど、重い処理が混在するWebアプリケーションでは、least_connを使うことで安定性が向上します。
また、各サーバーのスペックが異なる場合にも有効です。性能の低いサーバーには自然とリクエストが少なく割り当てられるため、全体として効率的な負荷分散が実現できます。
IPハッシュ|同じユーザーを同じサーバーに振り分ける
IPハッシュ(ip_hash)は、ユーザーのIPアドレスに基づいて振り分け先のサーバーを決定する方式です。同じIPアドレスからのリクエストは、常に同じサーバーに送られます。
設定は、upstream ブロックに ip_hash; を追加します。
upstream backend {
ip_hash;
server 192.168.1.10:8080;
server 192.168.1.11:8080;
server 192.168.1.12:8080;
}
仕組みを説明します。NginxはユーザーのIPアドレスをハッシュ関数で計算し、その結果に基づいてサーバーを選択します。IPアドレスが変わらない限り、計算結果も同じなので、同じサーバーに振り分けられます。
なぜこの方式が必要なのかというと、セッション管理のためです。多くのWebアプリケーションでは、ログイン状態やショッピングカートの内容などを「セッション」として各サーバーのメモリに保存します。もしユーザーのリクエストが毎回違うサーバーに送られると、ログイン状態が失われたり、カートの中身が消えたりする問題が起こります。
IPハッシュを使えば、同じユーザーは常に同じサーバーにアクセスするため、セッション情報を維持できます。
ただし、デメリットもあります。ユーザーのIPアドレスが偏っている場合、負荷も偏ります。例えば、大企業の社員が同じプロキシサーバー経由でアクセスすると、すべて同じIPアドレスに見えるため、1台のサーバーに集中してしまいます。
また、サーバーを追加・削除すると、ハッシュの計算結果が変わり、ユーザーが別のサーバーに振り分けられる可能性があります。セッションが失われるリスクがあるため、運用時には注意が必要です。
現代的な解決策として、セッション情報をRedisなどの外部ストアに保存する方法があります。こうすれば、どのサーバーでリクエストを処理してもセッション情報にアクセスできるため、IPハッシュに頼る必要がなくなります。
どのアルゴリズムを選べばいいか?用途別の選び方
3つのアルゴリズムを紹介しましたが、実際にどれを選べばいいのでしょうか。用途別の選び方をまとめます。
すべてのサーバーのスペックが同じ
リクエストの処理時間がほぼ一定
シンプルな構成で管理したい
セッション管理が不要、またはアプリケーション側で対応済み
多くの一般的なWebサイトやAPIサーバーでは、ラウンドロビンで十分です。まずはこれから始めて、問題があれば他の方式に変更するのが良いでしょう。
リクエストの処理時間にバラつきがある
画像処理、動画変換など、重い処理が含まれる
各サーバーのスペックが異なる
より均等な負荷分散を実現したい
処理が複雑なWebアプリケーションや、バックエンドで重い計算を行うシステムでは、least_connが効果的です。
セッション管理が必要で、外部ストアを使っていない
ユーザーを特定のサーバーに固定したい
アプリケーションの改修が難しく、サーバー側でセッションを保持するしかない
ただし、IPハッシュは最後の手段と考えてください。可能であれば、セッション情報を共有する仕組み(RedisやJWTトークンなど)を導入し、ラウンドロビンやleast_connを使う方が柔軟性が高く、運用しやすいシステムになります。
迷ったら、まずはラウンドロビンから始めましょう。設定も簡単で、多くの場合で十分に機能します。実際に運用してみて、負荷の偏りやセッションの問題が出てきたら、その時点で最適なアルゴリズムに切り替えれば良いのです。
次は、サーバー障害時の対応について解説します。
サーバー障害時の自動切り替えを設定する
ロードバランシングの設定ができても、サーバーが障害でダウンした場合の対策がなければ、システムの安定性は保てません。このパートでは、Nginxがサーバーの障害を自動的に検知し、正常なサーバーにのみリクエストを振り分ける仕組みを解説します。
万が一の障害に備えた設定を追加することで、サービスを止めない強固なシステムを構築できます。
ヘルスチェックでダウンしたサーバーを自動除外
Nginxには、バックエンドサーバーの健全性を監視する「ヘルスチェック」機能があります。ただし、NGINX OSSで使えるのは「パッシブヘルスチェック」と呼ばれる方式です。
パッシブヘルスチェックは、実際のリクエスト処理の結果を見て、サーバーの状態を判断します。定期的に自動で確認するわけではなく、ユーザーからのリクエストを処理する過程で、サーバーが正常かどうかをチェックする仕組みです。
設定は以下のように行います。
upstream backend {
server 192.168.1.10:8080 max_fails=3 fail_timeout=30s;
server 192.168.1.11:8080 max_fails=3 fail_timeout=30s;
server 192.168.1.12:8080 max_fails=3 fail_timeout=30s;
}
パラメータの意味を見ていきましょう。
max_fails=3 は、「3回連続で失敗したら、このサーバーを一時的に除外する」という設定です。失敗とは、接続エラーやタイムアウト、502/503/504などのエラーレスポンスを指します。
fail_timeout=30s は、「30秒間そのサーバーを除外し、30秒後に再び試す」という意味です。つまり、3回失敗したサーバーは30秒間使用されず、30秒経過後に再度リクエストが送られて復旧を確認します。
動作の流れをイメージしてみましょう。サーバーAで何らかの障害が発生したとします。最初のリクエストが失敗(1回目)、次のリクエストも失敗(2回目)、さらに次も失敗(3回目)すると、NginxはサーバーAを除外します。その後30秒間は、サーバーBとサーバーCだけでリクエストを処理します。30秒経過後、Nginxは再びサーバーAにリクエストを送って確認し、成功すればサーバーAを復帰させます。
この仕組みにより、ユーザーは障害の影響をほとんど受けません。最初の3回のリクエストは失敗する可能性がありますが、先ほど設定した proxy_next_upstream によって自動的に別のサーバーにリトライされます。つまり、ユーザーがエラーを目にする可能性は極めて低くなります。
パラメータの調整ポイントも知っておきましょう。max_fails を小さくすれば、障害の検知が早くなりますが、一時的なネットワークの揺らぎでもサーバーが除外されやすくなります。逆に大きくすれば、誤検知は減りますが、障害の検知が遅れます。一般的には3〜5が適切です。
fail_timeout を短くすれば、障害から復旧した際に早く戻せますが、まだ不安定なサーバーに早々にリクエストが送られるリスクがあります。30秒〜60秒程度が標準的な設定です。
なお、NGINX Plus(商用版)では、定期的に自動でサーバーの状態を確認する「アクティブヘルスチェック」が使えますが、NGINX OSSでは利用できません。しかし、実務上はこのパッシブヘルスチェックで十分に対応できます。
バックアップサーバーで障害時も安定稼働
もう一つの重要な設定が、バックアップサーバーです。これは、すべてのメインサーバーが障害でダウンした場合の最後の砦として機能します。
設定は、サーバーの定義に backup パラメータを追加するだけです。
upstream backend {
server 192.168.1.10:8080 max_fails=3 fail_timeout=30s;
server 192.168.1.11:8080 max_fails=3 fail_timeout=30s;
server 192.168.1.12:8080 max_fails=3 fail_timeout=30s;
server 192.168.1.13:8080 backup;
}
この設定では、192.168.1.10〜12の3台がメインサーバー、192.168.1.13がバックアップサーバーです。
通常時の動作では、バックアップサーバーにはリクエストが送られません。3台のメインサーバーだけでリクエストを処理します。バックアップサーバーは待機状態です。
障害時の動作を見てみましょう。何らかの理由で3台のメインサーバーがすべてダウンしたとします。この時、Nginxは自動的にバックアップサーバーにリクエストを送り始めます。処理能力は下がるかもしれませんが、サービスは継続できます。
そして、メインサーバーのいずれかが復旧すると、Nginxは再びメインサーバーを使い始め、バックアップサーバーは待機状態に戻ります。
実務での活用方法としては、以下のようなパターンがあります。
スペックの低いサーバーをバックアップとして配置する方法です。通常時は使わないので、コストを抑えられます。緊急時には性能が落ちても、サービスが止まるよりはマシです。
また、バックアップサーバーを別のデータセンターに配置することで、災害対策にもなります。メインのデータセンターが丸ごとダウンしても、別拠点のバックアップサーバーでサービスを継続できます。
さらに、メンテナンス時にも活用できます。メインサーバーを順次メンテナンスしている間、バックアップサーバーが稼働することで、サービスを止めずに作業できます。
注意点として、バックアップサーバーも定期的に動作確認をしましょう。いざという時に動かなければ意味がありません。定期的にメインサーバーを手動で停止し、バックアップサーバーが正常に動作するかテストすることをお勧めします。
これらの設定により、単一障害点を排除し、高可用性を実現するシステムが完成します。メインサーバーが障害でダウンしても、自動的に切り替わり、ユーザーは何事もなかったかのようにサービスを利用できます。
次に、これまでの内容をまとめて、Nginxロードバランサー導入のポイントを振り返ります。
まとめ|Nginxで始めるシンプルで確実な負荷分散
ここまで、Nginxを使ったロードバランシングの基本から実装方法まで解説してきました。最後に、重要なポイントを振り返りましょう。
サーバーの負荷分散が必要な理由
1台のサーバーだけでシステムを運用していると、アクセス集中時に過負荷でダウンするリスクがあります。特に、ECサイトのセールやキャンペーン時には、このリスクが現実のものになります。複数のサーバーとロードバランサーを組み合わせることで、負荷を分散し、1台がダウンしてもサービスを継続できる強固なシステムを構築できます。
Nginxロードバランサーの強み
Nginxは、オープンソースで無料ながら、世界中の大規模サイトで採用されている実績があります。非同期イベント駆動アーキテクチャにより、少ないリソースで大量の同時接続を処理できます。設定もシンプルで、upstreamとproxy_passの2つの要素を理解すれば、すぐに動作するロードバランサーを構築できます。
実装の基本ステップ
まず、upstreamブロックでバックエンドサーバーのグループを定義し、proxy_passでリクエストを転送します。これが最小構成です。実務で使うには、ヘッダーの転送設定(Host、X-Forwarded-For、X-Forwarded-Proto)とタイムアウト設定(proxy_connect_timeout、proxy_read_timeout)を追加します。さらに、proxy_next_upstreamでエラー時の自動リトライを設定すれば、より安定したシステムになります。
負荷分散アルゴリズムの選び方
デフォルトのラウンドロビンは、サーバーに順番にリクエストを振り分けます。シンプルで理解しやすく、多くの場合で十分に機能します。リクエストの処理時間にバラつきがある場合や、サーバーのスペックが異なる場合は、最小接続数(least_conn)を使いましょう。セッション管理が必要で、外部ストアを使えない場合のみ、IPハッシュ(ip_hash)を検討します。迷ったら、まずはラウンドロビンから始めるのが賢明です。
障害対策で可用性を高める
max_failsとfail_timeoutを設定することで、障害が発生したサーバーを自動的に除外できます。一般的には、max_fails=3、fail_timeout=30sが適切です。さらに、backupパラメータでバックアップサーバーを用意すれば、すべてのメインサーバーがダウンしても、サービスを継続できます。
最初の一歩を踏み出そう
ロードバランシングは難しそうに感じるかもしれませんが、Nginxなら驚くほどシンプルに実装できます。この記事で紹介した設定をコピーして、自分の環境のIPアドレスとポート番号に書き換えるだけで、すぐに動き始めます。
まずは小さく始めてみましょう。テスト環境で2台のサーバーを使ってロードバランシングを試してみてください。動作を確認したら、本番環境に展開し、サーバーを増やしていけば良いのです。
システムの成長に合わせて拡張できる
Nginxロードバランサーの最大の利点は、柔軟性です。ビジネスが成長してアクセスが増えたら、設定ファイルにサーバーを追加するだけで処理能力を増やせます。逆に、アクセスが落ち着いた時期にはサーバーを減らしてコストを最適化できます。サービスを止めることなく、システムを成長させられるのです。
Nginxでロードバランシングを導入することは、単なる技術的な改善ではありません。ビジネスの機会損失を防ぎ、ユーザーに安定したサービスを提供し、企業の信頼を守る重要な投資です。
この記事で学んだ知識を活かし、今日からでもロードバランシングの導入を検討してみてください。システムの安定性と拡張性が向上し、ビジネスの成長を支える強固な基盤が手に入ります。
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